ラジオ村・村長の旅日記(020)
昭和34年、社会人になって初めての取材旅行で体験した中で忘れられない のは”国境”と言うものをこの目で見たことだ。日本国内にいたら国境と言う ものに接することはまったくない。それは海であり、砂浜であり、別に特別の 意味はない。しかし香港へ行って”国境”に接して、一本の”踏み切り”のような 棒で隔てられた道は不気味だった。その向こう側は敵国であり、兵隊の姿こそ 見かけなかったが、はてしなく続く何の変哲もない一本の道路だが、そこから先は 闇の中なのだ。 別の丘の上から見るあちらの国、”中華人民共和国”は、深い谷と言うか 草原の向こうにかすかに見える家らしいものがあるだけ、民主主義国と 共産党の国が顔を合わすことのない空間がそこにあるだけ。戦争こそしていないが 緊張感が漂う。生まれて初めての国境体験だ。あちらの国は想像するしかない。 日本ではまさに体験できないものを感じて帰ってきた。